富士の夜明け前——仇討ちの朝に恋人へ送った別れの言葉
曽我物語によれば、十郎祐成は仇討ちを決行する前夜、大磯の虎御前に「今宵こそ覚悟の夜。生きて再び会うことは叶わぬやも知れぬ」という趣旨の文を送ったとされる。その後、兄弟は工藤祐経の陣を急襲して見事に仇を討った。しかし十郎は乱戦で新田忠常に討ち取られた。享年22。虎御前は訃報を受けて慟哭し、翌年19歳で出家。善光寺で念仏三昧の日々を送ったと伝わる。この悲恋のエピソードは能や歌舞伎で繰り返し演じられ、十郎を単なる復讐者ではなく、愛と義を両立させた人物として後世の人々の心を捉えた。