豊玉姫命と浦島太郎伝説の「乙姫(おとひめ)」は、神話学的には別の存在ですが、深い関係があります。乙姫は豊玉姫命の信仰が時代を経て庶民化・物語化される中で変容した姿とみる研究者が多く、「海の底の宮殿に住む美しい姫君」という基本的な造型は両者に共通しています。乙姫という名は「弟(おと)の姫=若い姫」を意味し、豊玉姫命の妹・玉依姫命との混同も古くから指摘されています。
記紀神話に登場する「鰐(わに)」は、現代語のワニ(クロコダイル類)とは異なります。古代日本語では鮫(さめ)を「わに」と呼ぶこともあり、海の大型生物全般を指す広義の語として使われていました。豊玉姫命が変身した「鰐」は、海亀・龍・鮫など諸説ありますが、「巨大な海の神の化身」という神話的意味が本質です。龍宮信仰との習合の中では、龍(りゅう)の姿と同一視されることが多くなりました。
龍宮神社と海神社(わたつみじんじゃ)はどう違いますか?
「龍宮神社(りゅうぐうじんじゃ)」は豊玉姫命(乙姫)や龍王を主祭神とする神社の総称で、浦島太郎伝説や龍宮信仰と結びついた呼称です。「海神社(わたつみじんじゃ)」は古代の神格・綿津見神(海神)を主祭神とする、より古い神社格を持つ社を指す傾向があります。和多都美神社(対馬)は後者の典型例です。両者は信仰の根は同じですが、歴史的経緯・由緒・神社格(社格)に違いがある場合がほとんどです。神社格とは、古代から中世にかけての朝廷による神社の格付けのことで、式内社・一宮・国幣社などの区分があります。
安産の御神徳は特に有名ですが、豊玉姫命のご利益はそれだけではありません。漁業・航海の守護(海神の御息女として)、縁結び・良縁(山幸彦との神話的な恋愛に由来)、子育て(鵜葺草葺不合命を産んだ母神として)、さらには延命長寿(龍宮=不老不死の宮という観念から)を授けてくださるとされる神社もあります。お訪ねになる神社によって重点的な御神徳が異なりますので、事前に社務所にお問い合わせになることをお勧めします。