甲子社は甲子(きのえね)の日に縁起を担いで大黒天(大国主命)を祀る習慣から生まれた社で、江戸時代に商人文化とともに広まった信仰形態である。青梅市沢井は多摩川上流に位置し、江戸時代には沢井の清水で仕込まれた酒蔵が名産品として名を馳せた地域である。酒造業を営む人々にとって商売繁盛と良縁は切実な願いであり、甲子社への信仰はこうした地域経済の文脈の中で育まれてきた。沢井は現代でも酒蔵と渓流沿いの自然で知られる観光地だが、甲子社はそうした観光化以前からこの地の住民の生活信仰を支えてきた。大黒天は縁結びと五穀豊穣の神でもあり、農業と商業の両立したこの地域で幅広い崇敬を集めてきた。