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在原業平の東下り——墨田川の都鳥に恋人への想いを詠んだ歌人
在原業平は平安時代を代表する歌人で、六歌仙・三十六歌仙の一人。東国への旅で墨田川の都鳥(ユリカモメ)を見て、都の恋人を思い「名にし負はばいざ言問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと」と詠んだ。この名歌は「伊勢物語」第九段「東下り」として後世に伝わり、恋と旅を詠み続けた業平の生涯とともにやさしく解説する。
深く読み解く一冊
目次
MOKUJI
在原業平とはどんな人物か
東下り——旅と恋の名場面
業平の恋と生涯
ゆかりの地を訪ねよう
よくある質問
在原業平の肖像——三十六歌仙額に描かれた平安の恋の歌人
Wikimedia Commons / Public Domain
**在原業平(825〜880年)は、平安時代を代表する「恋の歌人」です。**六歌仙・三十六歌仙に名を連ね、千年以上たった今も「伊勢物語」の主人公として私たちに親しまれています。
在原業平とはどんな人物か
皇族の血を引く貴族歌人
在原業平は、平城天皇の孫として生まれました。「在原」という姓は、皇族が臣籍降下(皇族の身分を離れて一般の貴族になること)したときに与えられた名前です。
父は阿保親王、兄は同じく著名な歌人・在原行平(謡曲「松風」の主人公)です。貴族として宮廷に仕えながら、地方官として各地を歴任しました。
六歌仙とは何か
歌人
時代
代表作・特徴
在原業平
平安前期
情熱的な恋歌。「伊勢物語」のモデル
小野小町
平安前期
恋の孤独を詠んだ美貌の歌人
僧正遍昭
平安前期
出家後も優雅な歌風を持つ僧
文屋康秀
平安前期
庶民的な視点の滑稽な歌
喜撰法師
平安前期
謎めいた人物で詳細は不明
大友黒主
平安前期
力強い歌風とされる
六歌仙とは、905年に成立した「古今和歌集」の仮名序(序文)で紀貫之が優れた歌人として挙げた六人のことです。業平はこの中でも特に「情熱的な恋の詩人」として知られています。
百人一首かるた——在原業平も百人一首に選ばれた平安の歌人のひとり
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
東下り——旅と恋の名場面
墨田川で都鳥に問いかけた歌
業平が東国(現在の関東地方)へ旅した際、一行は現在の東京・墨田川のほとりに到着しました。川には白くて嘴と足が赤い鳥が群れており、誰かが「あの鳥の名前は何というのか」と問いました。
「都鳥(みやこどり)」と教えられた業平は、遠く離れた都に置いてきた恋人のことを思い、こう詠みました。
名にし負はば いざ言問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと
意味:「都鳥という名を持つのなら、聞かせておくれ。私が恋しく思う人は、都で元気にしているかどうか」
「都鳥」は今でいうユリカモメのこと。遠い都への望郷と、残してきた恋人への切ない思いが、鳥への問いかけというユニークな形で表現されています。
この歌は**「古今和歌集」に収められ**、後に「伊勢物語」第九段「東下り」の名場面として後世に伝わりました。
伊勢物語との関係
「伊勢物語」は、平安前期に成立した歌物語です。「昔、男ありけり」という書き出しで始まる各段は、業平をモデルとした「男」の恋愛と旅を描きます。全125段からなり、特に「東下り」(第九段)は旅の中の恋情を詠んだ名場面として中学校の教科書にも登場します。
平安時代の宮廷儀式の様子——業平が仕えた平安宮廷の雅やかな世界
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
業平の恋と生涯
色好み——情熱的な恋の詩人
業平は「色好み(いろごのみ)」の代名詞でもあります。藤原氏全盛の時代に皇族の血を引きながらも政治的には恵まれず、その情熱を和歌と恋愛に注ぎ込みました。
「色好み」とは単に多くの恋をすることではなく、自然と人間の美しさに深く感動し、それを言葉で表現できる人を指す平安時代の美的理想でした。業平はこの理想を体現した人物として、小野小町とともに語り継がれています。
藤原氏の時代に皇族として生きた葛藤
父・阿保親王が死去したとき業平はまだ若く、政治的な後ろ盾を持てませんでした。藤原氏が権力を独占する時代に皇族の血を引きながらも要職には就けず、各地の地方官として転任を重ねました。その不遇が、却って豊かな詩情を育んだともいえます。
平安時代の宮廷装束——業平が身にまとった時代の衣裳文化
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
ゆかりの地を訪ねよう
業平ゆかりの地は、京都西山と奈良に残っています。
十輪寺(なりひら寺)
十輪寺は、京都市西京区に位置し「なりひら寺」の名でも知られます。業平が晩年を過ごした場所と伝わり、境内には**「塩竃(しおがま)」と呼ばれる業平ゆかりの遺構**が残ります。伝説によると、業平はここで塩を焼きながら恋人を待ち続けたといいます。業平ゆかりの地の中でも最も静かで、雅な雰囲気を今に伝える寺院です。
不退寺(業平寺)
不退寺は奈良市に位置し、「業平寺」と呼ばれることもあります。業平が自ら建立したと伝わり、境内には業平の塑像が安置されています。「伊勢物語」に登場する各地を巡る「業平道」の起点ともされます。
業平の人物ページでは、六歌仙の一員として活躍した業平の生涯をさらに詳しく知ることができます。また、平安時代を彩った紫式部菅原道真のページも併せてご覧ください。
平安時代の宮廷文書——和歌が政治・社会の要となった平安文化の象徴
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
よくある質問
在原業平は実在の人物ですか?
はい、実在します。825年から880年まで生きた平安時代の貴族・歌人です。古今和歌集に30首以上の歌が収められており、歴史的な実在が確認されています。「伊勢物語」の「昔男」は業平をモデルにしたとされますが、そのまま業平の伝記ではなく、文学的な創作も含まれます。
「東下り」はどこへの旅ですか?
現在の関東地方、つまり東海道を経て武蔵国(今の東京・埼玉あたり)や上総国(千葉)方面への旅です。業平が地方官として赴任または旅した際のことと考えられています。伊勢物語では三河・駿河・武蔵など各地の名所が登場します。
都鳥(みやこどり)はどんな鳥ですか?
現在のユリカモメと考えられています。白い体に赤い嘴と赤い足を持つカモメの一種で、冬になると東京湾や各地の川・海岸に飛来します。「都鳥」という名前は地方によって異なる鳥に使われることもありますが、業平の歌の舞台である墨田川のユリカモメが最も有名な解釈です。
最終更新日:2026年6月3日
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ゆかりの地を訪ねる
記事で読んだ歴史は、現地に立つとさらに深く実感できます。下のスポットや巡礼コースから、次の参拝先を選んでみませんか。
1. 十輪寺
在原業平が晩年を過ごした「なりひら寺」、塩竈の遺構と三方普感の庭が伊勢物語の世界を今に伝える
2. 不退寺
在原業平が自ら観音を刻んで開基した「業平寺」・平安の雅が漂う佐保路の古刹
一 期 一 会
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