藥王寺は台東区根岸に位置する天台宗寺院である。根岸は江戸時代から文人墨客が好んだ風雅な土地で、幕末から明治にかけては俳人・正岡子規が「子規庵」を構えた地として知られる。藥王寺はこうした文化的土壌の中に育まれた寺院であり、近隣には多くの寺社が集まる。寺名の「藥王」は薬師如来信仰や法華経に登場する藥王菩薩に由来するとされ、民衆の病気平癒への祈りを受け止めてきた。江戸期には根岸一帯に幕府の御薬園(小石川薬園の前身に連なる薬草栽培地)が置かれるなど、薬に縁の深い土地柄とも重なる。明治以降も地域の信仰の拠り所として静かに法灯を守り続けており、谷根千散策の折に訪れる参拝者も多い。