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日蓮聖人と三宝尊——法華経信仰と日蓮宗の寺院めぐり
日蓮聖人が顕した「三宝尊(さんぽうそん)」とは、久遠実成本師釈迦牟尼仏・日蓮大菩薩・大曼荼羅御本尊の三つの宝を意味します。法華経に基づく日蓮宗の信仰体系と、身延山久遠寺・池上本門寺・中山法華経寺をはじめとする代表的な寺院を解説します。
目次
MOKUJI
三宝尊とは何か——日蓮聖人が顕した三つの宝
日蓮聖人の生涯と法華経信仰
日蓮宗の主な本山と寺院
日蓮ゆかりの地を巡る
まとめ——参拝時のポイントとゆかりのスポット一覧
よくある質問
三宝尊とは何か——日蓮聖人が顕した三つの宝
「三宝尊(さんぽうそん)」とは、日蓮宗において最も根本的な信仰対象を指す言葉です。日蓮聖人(1222〜1282年)が法華経の教えに基づいて顕した三つの宝——すなわち久遠実成本師釈迦牟尼仏(くおんじつじょうほんしゃかむにぶつ)日蓮大菩薩(にちれんだいぼさつ)大曼荼羅御本尊(だいまんだらごほんぞん)——を総称したものです。
日蓮宗の寺院を訪れると、本堂の正面奥に三幅の掛軸または彫像が並ぶ光景を目にします。中央に「南無妙法蓮華経」の題目を記した大曼荼羅、向かって右に釈迦牟尼仏像、左に日蓮聖人像が安置されるのが基本的な形式です。この三者が一体となって、日蓮宗の礼拝の核心を形成しています。
日蓮聖人像——「南無妙法蓮華経」の題目を唱えた法華宗の宗祖
Wikimedia Commons / Public Domain
久遠実成本師釈迦牟尼仏——法華経が示す永遠の仏
法華経・如来寿量品(第十六章)に説かれる釈迦牟尼仏は、歴史上ある時期に誕生し悟りを開いたという姿ではなく、永遠の昔に成仏した久遠の仏として描かれています。日蓮聖人はこの「久遠実成の本仏」こそが真実の仏であると確信し、末法の世において人々を救う最根本の仏として三宝尊の筆頭に置きました。
日蓮大菩薩——末法の導師として
日蓮聖人は自らを、末法の世に法華経を弘める使命を持って生まれた「上行菩薩の再誕」と捉えていました。後世、弟子たちは聖人を「日蓮大菩薩」と尊称し、三宝尊の一尊として礼拝します。聖人の生涯にわたる殉教的な信仰の姿は、数々の迫害(四大法難)を経てもなお揺るぐことなく、多くの信者の心に先達の精神が息づいています。
大曼荼羅御本尊——「南無妙法蓮華経」の世界
日蓮聖人が最晩年に顕した大曼荼羅は、「南無妙法蓮華経」の七文字を中心に、法華経に登場する諸仏菩薩の名号が墨字で記された特異な本尊です。絵画的・彫刻的な仏像ではなく、文字そのものが本尊であるというのが日蓮宗の独自の立場です。この曼荼羅に向かって題目を唱えることが、日蓮宗における根本的な修行とされています。
日蓮聖人の生涯と法華経信仰
日蓮聖人像——「南無妙法蓮華経」の題目を唱えた法華宗の宗祖
Wikimedia Commons / Public Domain
日蓮聖人は、承久4年(1222年)2月16日、安房国長狭郡(現在の千葉県鴨川市)の漁村に生まれました。幼名を善日麻呂と言い、12歳で近隣の清澄寺に入り仏道の修行を始めます。その後、比叡山・高野山・奈良・鎌倉などで諸宗の教えを広く学んだ末、**建長5年(1253年)**4月28日、清澄寺にて「南無妙法蓮華経」の題目を初めて唱え、日蓮宗の開宗を宣言しました。この日を「立教開宗の日」と呼び、毎年4月28日に記念法要が各地の日蓮宗寺院で執り行われます。
四大法難——信仰ゆえの受難
日蓮聖人の生涯は、ひたすら法華経の正しさを説き、他宗の邪義を批判し続けた歩みでもありました。その結果、聖人は生涯に四度の大きな迫害(四大法難)を受けています。
法難
内容
松葉ヶ谷の法難
1260年
『立正安国論』提出後、草庵が焼き討ちに
伊豆流罪
1261年
伊豆国(静岡県伊東市付近)へ流罪
小松原の法難
1264年
安房国(千葉県)にて刃傷事件、弟子が殺害される
龍ノ口の法難
1271年
相模国龍ノ口(神奈川県藤沢市)で処刑寸前に
佐渡流罪
1271年
龍ノ口の直後に佐渡島へ流罪(3年間)
これほどの苦難を経ながらも、聖人は「難来たりなば信仰の増すと思え」と説き、迫害をむしろ信仰の証として受け入れました。静寂に身を置くと、その言葉の重みが胸に迫ってきます。
晩年の身延山と入滅
佐渡流罪を赦免された後、聖人は文永11年(1274年)に身延山(現在の山梨県身延町)に草庵を結び、以後9年間を弟子の育成と著作の執筆に費やしました。弘安5年(1282年)、病を得た聖人は身延山を下山して療養のため武蔵国池上(現在の東京都大田区)に向かい、同年10月13日に61歳で入滅しました。この地は現在の池上本門寺であり、入滅の日は「お会式(おえしき)」として毎年盛大な法要が営まれています。
日蓮宗の主な本山と寺院
日蓮宗は宗祖・日蓮聖人の遺志を継ぐ教団として、多くの本山・大本山・霊跡本山を擁しています。以下に主な寺院を一覧にまとめます。
寺院名
所在地
宗派上の位置づけ
主な特徴
身延山久遠寺
山梨県南巨摩郡身延町
総本山
日蓮聖人御廟所、287段の菩提梯、お会式(10月13日)
池上本門寺
東京都大田区池上
大本山
日蓮聖人入滅の地、東京最古の五重塔(1608年)、お会式万灯練り供養
中山法華経寺
千葉県市川市中山
大本山
関東における布教の拠点、国宝・重要文化財多数、荒行堂
誕生寺
千葉県鴨川市小湊
霊跡本山
日蓮聖人御誕生の地、「小湊誕生寺」とも称される
妙顕寺
京都府京都市上京区
大本山(勅願寺)
京都における日蓮宗の拠点、天皇家との縁が深い
身延山久遠寺の三門——日蓮宗の総本山、日蓮聖人が晩年を過ごした霊地
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
総本山・身延山久遠寺への参詣
身延山久遠寺は山梨県南巨摩郡身延町に位置し、標高1,153メートルの身延山の中腹に広がる日蓮宗の総本山です。日蓮聖人が晩年の9年間を過ごした地であり、聖人の御廟所(お墓)が奉安されています。境内への入口となる三門をくぐり、287段の「菩提梯(ぼだいてい)」と呼ばれる急峻な石段を登ると、杉の古木が立ち並ぶ境内が広がります。毎年10月13日には聖人の入滅を悼む「お会式」が執り行われ、全国から多くの信者が参集します。
/spot/kuonji では、境内の詳細な見どころと参拝のポイントを確認できます。
大本山・池上本門寺と「お会式万灯練り供養」
池上本門寺は東京都大田区に位置し、日蓮聖人が入滅した地に建てられた大本山です。境内の高台に立つ五重塔は1608年(慶長13年)に建立された東京最古のもので、重要文化財に指定されています。毎年10月11〜13日に行われる「お会式万灯練り供養」では、万灯を掲げた信者たちが夜の境内を練り歩く壮観な光景が繰り広げられます。江戸庶民に深く根ざした信仰の姿がそこにあり、先達の精神が息づいています。
/spot/ikegami-honmonji では、五重塔や参拝路の詳細を紹介しています。
日蓮ゆかりの地を巡る
中山法華経寺の祖師堂——日蓮聖人が鎌倉幕府から難を逃れた地に建つ関東の大本山
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
中山法華経寺——関東における日蓮宗の心臓部
千葉県市川市中山に位置する法華経寺は、日蓮聖人が鎌倉幕府による龍ノ口の法難の後、中山の地に立ち寄って布教を続けたことに由来する大本山です。境内には国宝の「大曼荼羅」「立正安国論」をはじめ、多数の重要文化財が所蔵されており、日蓮宗の文化財の宝庫ともいえます。また境内の荒行堂(荒行道場)では、厳冬の時期に百日間にわたる厳しい修行が今も行われており、日蓮宗の修行の厳しさを物語っています。
/spot/ichikawa-hokekyoji/spot/hokekyoji から、中山法華経寺の境内案内と見どころを辿ることができます。
誕生寺——聖人の生まれた地・安房小湊
千葉県鴨川市小湊にある誕生寺は、日蓮聖人が生まれた地に建てられた霊跡本山です。「小湊誕生寺」とも呼ばれ、太平洋を望む小湊の地で生まれた聖人の原点を感じることができる場所です。境内では毎年2月16日の聖人降誕会をはじめ、多くの法要が営まれます。太平洋の潮風とともに境内に立つと、この地から法華経の教えを広めようとした聖人の志に思いを馳せずにはいられません。
名古屋・瑞光院と西日本の日蓮宗
名古屋にも日蓮宗の霊跡が残されており、/spot/nagoya-zuikou-kuonji では東海地方における日蓮宗の展開を学ぶことができます。日蓮宗は東日本の寺院が特に著名ですが、西日本各地にも「法華一揆」(法華宗徒による政治運動)の歴史を持つ寺院が数多く存在しています。
身延山の桜——霊山に咲く春の花、お会式に全国から信者が集まる
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
お会式の万灯——信仰が生んだ庶民文化
「お会式」とは、日蓮聖人の命日(10月13日)に合わせて行われる法要の総称です。なかでも池上本門寺の「万灯練り供養」は江戸時代から続く伝統で、桜の造花を飾った万灯を掲げた講中(信者グループ)が太鼓を打ち鳴らしながら境内を練り歩く光景は、東京の秋の風物詩として広く知られています。身延山久遠寺のお会式では、全国各地から参詣者が集まり、霊山に秋の深まりを知らせるという祈りが込められています。
池上本門寺の五重塔——日蓮聖人入滅の地に建つ東京最古の五重塔
Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
まとめ——参拝時のポイントとゆかりのスポット一覧
参拝時のポイント
日蓮宗の寺院を参拝する際は、いくつかの点を心に留めると、より深い体験となります。
三宝尊への向き合い方: 本堂に入ったら、中央の大曼荼羅御本尊に合掌し「南無妙法蓮華経」と静かに唱えることが基本的な礼拝の作法です。参拝の言葉(題目)は声に出さなくとも心の中で唱えることができます。
法難の歴史を辿る: 龍ノ口(藤沢市)・松葉ヶ谷(鎌倉市)・伊豆(伊東市)など、四大法難ゆかりの地も現在は整備された史跡となっています。複数のゆかりの地を結ぶ「日蓮聖人ゆかりの地」巡りは、聖人の生涯を立体的に理解する旅となります。
お会式の時期を選ぶ: 10月13日前後に日蓮宗の寺院を訪れると、普段とは異なる熱気と信仰の深さを肌で感じられます。特に池上本門寺の万灯練り供養(10月11〜13日)は、一度は訪れる価値のある行事です。
菩提梯の急勾配に備える: 身延山久遠寺の菩提梯(287段)は傾斜が非常に急です。体力に自信がない場合はロープウェイを利用することをお勧めします。また境内は広大ですので、参拝には2〜3時間程度の余裕を持って臨むとよいでしょう。
ゆかりのスポット一覧
身延山久遠寺(山梨県身延町) — 日蓮宗の総本山、日蓮聖人御廟所
池上本門寺(東京都大田区) — 日蓮聖人入滅の地、東京最古の五重塔
中山法華経寺・市川(千葉県市川市) — 国宝・重要文化財を多数蔵する関東の大本山
法華経寺(千葉県市川市) — 荒行堂を擁する日蓮宗の修行の地
名古屋・瑞光院(愛知県名古屋市) — 東海地方における日蓮宗の霊跡
よくある質問
三宝尊と「南無妙法蓮華経」はどのような関係がありますか?
「南無妙法蓮華経」は法華経の題目(タイトルに対する帰依の言葉)であり、日蓮宗における根本的な修行(唱題行)の言葉です。三宝尊の中心をなす大曼荼羅御本尊には、この「南無妙法蓮華経」の七文字が最も大きく記されており、この本尊に向かって題目を唱えることが日蓮宗の信仰の基本となっています。三宝尊全体が「法華経の真実を体現する三つの存在」であるとも言えます。
日蓮宗と法華宗・日蓮正宗はどう違いますか?
日蓮聖人を宗祖とする宗派は複数に分かれています。現在の「日蓮宗」(身延山久遠寺を総本山とする)は、日蓮聖人の六老僧の法流を継ぐ主流派です。「法華宗」は日蓮宗から分かれた宗派の一部に使われる呼称で、「日蓮正宗」(富士門流)は創価学会とかつて関係を持っていた別個の宗派です。「日蓮宗」「法華宗」「日蓮正宗」「顕本法華宗」などは、それぞれ独立した宗教法人として活動しています。
身延山久遠寺の「菩提梯」とはどのくらいの急勾配ですか?
菩提梯は287段の石段で、傾斜角は約45度とも言われる非常に急な坂道です。登りに5〜10分かかり、膝への負担も相当あります。体力に不安がある方や雨天時は、境内に設置されたロープウェイ(奥の院まで行けます)か、三門横の迂回路を利用することをお勧めします。静寂に身を置きながら石段を登り切ったとき、眼前に広がる杉木立の境内は格別の趣があります。
お会式(おえしき)はいつ、どこで行われますか?
お会式は日蓮聖人の命日(10月13日)を中心に、全国の日蓮宗寺院で行われます。最も規模が大きいのは池上本門寺(東京都大田区)のお会式で、10月11〜13日の三日間にわたる万灯練り供養は、江戸時代から続く伝統行事です。身延山久遠寺でも同時期に「お会式大法要」が執り行われ、全国から多くの信者が参集します。「万灯」と呼ばれる桜の造花を飾った灯篭を掲げて練り歩く姿に、先達の精神が息づいています。
最終更新: 2026年5月25日
── 了 ──
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