蔵王権現の青黒い体色は、忿怒(ふんぬ)の相を表す不動明王系の色彩表現に由来します。忿怒とは激しい怒りの表情を意味し、衆生の煩悩(ぼんのう)を砕く力を象徴します。また、釈迦如来(黄金の光)・千手観音(白銀の光)・弥勒菩薩(瑠璃色の光)の三色が合わさって変化した色が青黒となったという伝承もあります。見た目の恐ろしさは、実は深い慈悲の裏返しなのです。
修験道は仏教(特に密教)・神道・道教・古来の山岳信仰が複合した宗教です。密教(真言宗・天台宗)が体系的な教義と儀礼を提供し、神道が山岳の神々への信仰を提供し、道教的な呪術と神仙思想が験力の概念を支えています。修験道独自の特徴は「山岳という場所での修行」にあり、寺の中ではなく山野を道場とする点で他の宗教実践と根本的に異なります。金峯山寺は天台宗系(本山派修験道)に属しますが、修験道全体が密教と深く結びついています。
吉野山の桜は、修験者が蔵王権現への供花(くげ)として植え続けたことが起源とされています。「桜の霊木」を献ずる信仰が、千年以上にわたって約30,000本という圧倒的な桜景観を作り上げました。「花見」の名所として知られる吉野の桜ですが、その根底には蔵王権現への祈りが込められています。桜を眺めるとき、それが修験者の信仰の結晶であることを知れば、花の美しさがより深いものとして感じられます。
通常参拝では金峯山寺の蔵王堂に入堂し、御厨子(みずし)の扉が閉じた状態で参拝します。御開帳の期間中は、御厨子の扉が開かれ、青黒い体色の蔵王権現三体(高さ約7メートル)を間近に拝することができます。約1,300年前に役行者が感得したとされる秘仏の御姿は、御開帳の期間のみ公開される特別な体験です。春の御開帳(4月上旬〜5月上旬)には吉野山の桜と重なることが多く、参拝者にとって最も印象深い時期となります。