ガネーシャは創造神シヴァとその妃パールヴァティーの息子とされ、乗り物(ヴァーハナ)はネズミ、持物は斧・鉤・数珠・菓子など多岐にわたります。「ガナ(眷属の群れ)の主」という名が示すように、神々の軍勢を統率する役割も担います。この障害を除く力こそが、密教においても重視されることになります。
インド密教では、ガネーシャはヴィナーヤカ(障害をなす者)として当初は「煩悩や魔を象徴する神」として位置づけられていました。しかし大乗仏教・密教が体系化される過程で、仏・菩薩が障害神を調伏(ちょうぶく)し、味方につけるという論理が発展します。これがいわゆる「摂取(せっしゅ)」の思想です。
十一面観音菩薩が歓喜天を抱擁して調伏したという伝説は、この思想の象徴的な表現です。観音の慈悲の力によって、障害をなす荒ぶる神が仏法の守護者へと転換される——その祈りが込められています。こうして密教体系に組み込まれたガネーシャは「歓喜天」あるいは「大聖歓喜天(だいしょうかんぎてん)」と呼ばれる密教尊として生まれ変わりました。
歓喜天が日本に伝来したのは奈良時代のことです。密教が本格的に花開く平安時代には、空海(弘法大師)が唐から持ち帰った密教経典の中にも歓喜天の修法(しゅほう)が含まれていました。天台宗・真言宗という日本密教の二大流派はいずれも歓喜天の供養を行い、とりわけ「浴油供(よくゆく)」と呼ばれる独特の供養形式が確立されました。
仏教の仏の序列では、歓喜天は「天部(てんぶ)」に分類されます。如来・菩薩・明王・天部という四つの階位の中で最も下位にありますが、天部の神々は現世利益の強さで知られ、毘沙門天・弁財天・大黒天と並んで在家信者の信仰を集めてきました。