愛染明王は「神様」ではなく、仏教における「明王」(如来の化身)です。縁結びの御利益で知られていますが、その本義は「愛欲を含む一切の煩悩を転化して悟りに至る」という密教の教えにあります。個人の縁結びの祈願を入口としながら、より大きな慈悲の心を育てるための尊格という位置づけです。神道の縁結びの神(出雲大社の大国主命など)とは、信仰の体系が異なります。
どちらも密教の明王(忿怒尊)ですが、役割と象徴が異なります。不動明王(アチャラナータ)は大日如来の使者として「悪を断ち切り、障害を除く」ことを主な役割とし、火炎を背負う姿が特徴です。一方、愛染明王(ラーガラージャ)は「愛欲・煩悩を転化する」ことを本義とし、縁結びや愛敬増益の御利益で知られます。不動明王が「断ち切る」力とすれば、愛染明王は「引き寄せ・結ぶ」力といえます。両者はしばしば対で祀られ、密教の陰陽的な世界観を表現します。
真言密教が平安時代に空海によって体系化され、その本山が高野山(和歌山)に置かれたことが大きな理由です。密教の信仰は奈良・京都・大阪を中心とする畿内に根ざしており、愛染明王の信仰も自然とこの地域に集中しました。また、聖徳太子ゆかりの四天王寺(大阪)が愛染明王信仰の古い拠点であることも、関西における信仰の厚さに結びついています。関東では川崎大師(神奈川)・深大寺(東京)など真言宗の大寺院でも愛染明王を祀る場所があります。
「愛染まつり」は毎年6月30日から7月2日に愛染堂勝鬘院(大阪市天王寺区)で行われる夏祭りで、大阪三大夏祭りのひとつに数えられます(ほか:住吉大社の住吉祭、天神祭)。最大の見どころは、美しく飾られた「宝恵籠(ほえかご)」に乗った芸妓・舞妓が境内を練り歩く行列で、大阪の初夏の風物詩として定着しています。愛染明王への縁結び祈願と、商売人による夏の豊穣祈願が一体となった祭りで、境内は多くの参拝者と露店で賑わいます。