東大寺(とうだいじ)——宇宙仏が体現する「華厳の世界"
東大寺の本尊・盧舎那仏坐像は、「奈良の大仏」として広く知られていますが、その仏教思想的な意味を正確に理解している方は少ないかもしれません。盧舎那仏(ヴァイローチャナ)は華厳経の中心的な仏であり、「光明遍照(こうみょうへんじょう)——あらゆるものを照らし出す無限の光」を体現する宇宙の根本仏です。
聖武天皇が大仏造立を発願したのは、天平13年(741年)の国分寺建立の詔に始まる国家仏教政策の延長であり、「盧舎那仏の光明が国土全体を照らすように」という国家安泰の祈りが込められています。大仏殿という世界最大級の木造建築の中に鎮座する盧舎那仏は、宇宙の中心仏が地上に降りてきた象徴として設計されているのです。
南大門の金剛力士像(運慶・快慶作)は、鎌倉時代に造られた後補像ですが、その造形の力強さは当時の仏師たちの「生命力そのものを彫刻する」という意志が凝縮されています。阿形(あぎょう)・吽形(うんぎょう)の口の開閉は、宇宙の始まりと終わりを象徴するサンスクリット語の最初と最後の音を表しています。
興福寺は藤原氏の氏寺として、奈良時代から平安時代を通じて政治的権力とも深く結びついた寺院です。現在も法相宗の大本山として、唯識(ゆいしき)——「すべての認識は心の働きである」という哲学体系——の正統を伝えています。
五重塔(ごじゅうのとう)は天平2年(730年)に創建された現在のものは室町時代の再建ですが、高さ50.1メートルのその姿は奈良の空に美しく映えます(ここで「映え」という言葉を使うことを、私はためらいますが、これはただ事実として申し上げるものです)。五重塔の各層は五大(地・水・火・風・空)を象徴し、仏の宇宙を垂直の軸で表現したものです。
阿修羅像(あしゅらぞう)は国宝の乾漆像(かんしつぞう)であり、憤怒と哀愁を同時に宿した三面六臂の造形は、仏教美術の中でも特別な位置を占めます。怒りと悲しみと懇願——相反する感情が一体となった表情に、先達の精神が息づいています。
薬師寺は天武天皇が皇后(後の持統天皇)の病気平癒を願って発願した寺院です。薬師如来(やくしにょらい)とは、東方浄瑠璃世界(じょうるりせかい)を主宰する医薬の仏であり、「衆生の病苦を癒やし、心身ともに健やかに導く」という誓願(せいがん)を持ちます。
伽藍配置は「薬師寺式」と呼ばれる独自の様式で、金堂の両脇に東塔・西塔が並ぶ対称形の美しさが特徴です。東塔は和銅4年(711年)建立の唯一の奈良時代の塔として国宝に指定されており、各層に裳階(もこし)と呼ばれる飾り屋根が付いているため六層に見えますが実際は三重塔です。「凍れる音楽」と呼ばれるその造形の美しさは、静寂に身を置くとより深く伝わります。
唐招提寺(とうしょうだいじ)——鑑真和上の戒律への誓い
唐招提寺は、盲目となりながらも6度の渡航の試みを経て来日を果たした鑑真和上(がんじんわじょう)が、天平宝字3年(759年)に創建した律宗の総本山です。律宗とは、仏の教えに従って生活する戒律(かいりつ)の厳格な実践を中心とする宗義です。
金堂は奈良時代の建築様式をそのまま伝える国宝建造物であり、重厚な柱列と緩やかな屋根の曲線は、中国唐代の建築美学の日本的昇華を示しています。本尊・盧舎那仏坐像の両脇に立つ千手観音立像と薬師如来立像はそれぞれ国宝に指定されており、奈良仏教彫刻の精華を一堂に見ることができます。