世尊寺は台東区根岸に所在する真言宗豊山派の寺院である。「世尊」とは「世に尊まれる方」を意味するサンスクリット語「ロカナータ」「バガヴァン」の漢訳で、釈迦牟尼仏(ゴータマ・シッダールタ)への最高の敬称として経典に頻出する。この崇高な院号は、創建者が仏の教えへの深い帰依を寺名に刻もうとした意図を示している。根岸は江戸末期から明治期にかけて、俳人の正岡子規・小説家の泉鏡花らが住んだ文人の町として知られ、子規庵をはじめとする文化的史跡が点在する地域である。世尊寺はそうした文化の薫り高い下町の一角に佇み、地域住民の菩提を弔いながら、正岡子規や根岸ゆかりの文人たちが愛した静かな根岸の風情を今に伝えている。