現存する茶室の中で国宝に指定されているのは、待庵・如庵・密庵の三棟のみだ。それぞれが独自の哲学を建築に刻んでいる。
京都府乙訓郡大山崎町、妙喜庵(みょうきあん)の境内に建つ待庵は、天正10年(1582年)に千利休が豊臣秀吉のために建てたと伝わる。二畳台目という極限の小ささ——天下統一を目前にした武将が束の間の静寂を求めた場所だった。
待庵の最大の特徴は「土壁の肌」だ。真っ白な漆喰ではなく、藁・砂・土を混ぜた荒々しい土壁が三方を包む。そして躙口——この小さな入口をくぐるために天下人が腰を折る、その一瞬の「平等化」こそ利休が茶室建築に仕込んだ最大の仕掛けだ。妙喜庵は通常非公開だが、春と秋に特別公開が行われる。JR山崎駅から徒歩5分。
愛知県犬山市の有楽苑(うらくえん)内に建つ如庵は、元和4年(1618年)に織田信長の弟・有楽斎(うらくさい)長益が建てた茶室だ。三畳台目という待庵より少し広い空間だが、意匠の奇抜さでは他の追随を許さない。旧暦の紙を下地に小竹を並べた「有楽窓(うらくまど)」が独特の陰翳を生む。名鉄犬山駅から徒歩15分。定期公開あり。
大徳寺の塔頭・龍光院(りゅうこういん)の書院に附設された密庵は、元和年間(1615〜1624年)に小堀遠州が造らせたとされる。龍光院は厳格な非公開を貫いており、「日本で最も見ることのできない茶室」として知られている。大徳寺境内を参拝し、龍光院の土塀の外から庭の気配を感じるだけでも、この空間の奥深さは伝わる。