厳密には異なる出自を持ちます。市杵島姫命は日本神話の宗像三女神であり、弁財天はインドのヒンドゥー教女神サラスヴァティーが仏教を経由して日本に伝わった女神です。平安時代以降、両者が「水」と「音楽・芸能」という神格を共有していたことから神仏習合によって同一視されるようになりました。明治の神仏分離令以後は制度上区別されていますが、民衆の信仰においてはいまなお深く重なり合っています。
宗像三女神の中で市杵島姫命が最も広く信仰されているのはなぜですか?
市杵島姫命が弁財天と習合したことで、全国の寺院や弁天堂にも御神体・御神像が安置されるようになったことが最大の理由です。水辺の神・芸能の神・財福の神という多面的なご利益が、農村・商家・芸道を志す人々など、幅広い層の信仰を引き寄せました。厳島神社が平清盛の崇敬を受け国家的な大社として整備されたことも、全国への信仰普及に大きく貢献しています。
沖ノ島は宗像大社沖津宮が鎮まる御神体島であり、古代から神聖な場所として厳重に保護されてきました。島に上陸した者は島内で見たものを一切口外してはならず、島の草木一本・石一つも持ち出してはならないという禁忌が今なお守られています。この徹底した禁忌が古代の奉納品などを良好な状態で保存し、世界遺産登録の一因となりました。神がそのまま宿り続ける島として、人の手が及ばない聖域であることに、この信仰の本質があります。
一般的には、江島神社(神奈川県藤沢市)・竹生島宝厳寺(滋賀県長浜市)・厳島神社(広島県廿日市市)の三社を指すことが多いですが、大願寺(広島)・宝山寺(奈良)などを含む異説もあります。いずれも水辺に鎮まる社であり、市杵島姫命または弁財天を主祭神・本尊として祀っています。三社を巡礼することで、弁財天信仰の多様な表れ方を感じ取ることができます。